川内原発の一時停止について技術者倫理に基づく見解

原子力規制委員会において、川内原発の一時停止について技術に対して真摯に検討・議論することを求めるブログです

前提条件:川内原発を停止することによるリスクの整理

まず、前提として、現状況下において川内原発を停止することによる、リスクの減少および増加についての整理が必要です。

 

【停止することによるリスクの減少】

1.川内原発においては、ほぼ平常時と言える現段階で、通常の停止措置を行うことは、大地震の発生時にスクラム(緊急停止)を行うよりも、停止措置に問題が生ずるリスクを下げられます。万が一、スクラム時に制御棒が入らないと言ったようなトラブルがあった場合、即刻シビアアクシデントにつながる恐れがあります。

2.原子炉は停止をした後も、崩壊熱が発生するため、冷却をし続ける必要があります。しかし、その崩壊熱は、緊急停止の1秒後には、稼働時の6%以下、15分後には2%を切ることが示されています。今から停止して冷却を進めることは、リスクの最小化をする上で有効と考えます。

http://oshiete.goo.ne.jp/qa/8512826.html

 

【停止することによるリスクの上昇(指摘されている可能性含め)】

1.稼働継続派から、原発を停止させた方が危険な理由として、冷却による圧力容器の脆化(熱湯を入れたコップにいきなり水を注ぐと割れるという表現がなされていた)が挙げられていました。

が、しかし急激な冷却を避けるために、有事の緊急停止ではなく予防的に通常停止せよと言っているのですし、停止すること自体が危ないというならば、それは、 川内原発の脆性遷移温度(これ以下になると割れる温度)は既に高くなっており、緊急時に重大事故になるということを自ら述べていることになります。 幸いなことに、川内原発の脆性遷移温度が上昇しているという記事は見当たりません(玄海1号機はそれで廃炉が決まった)。そもそも定期点検等で停止する度に、圧力容器が割れるリスクを犯しているとでも言いたいのでしょうか?

2.黒川第一発電所の土砂崩れによる被災による電力不足懸念が挙げられていました。
被災した黒川第一発電所の発電容量は4.2万kWで、他火力発電所の容量に比べれば微々たるもの(他火力発電所の容量の0.5%相当)です。川内原発停止するならばもちろん火力はフル稼働に近くなるでしょうが、本当にそのわずかな増分も賄えないのでしょうか?
もし、それでも不足するなら関門連絡線(557万kW)を経由して中国電力からの融通を受けることになると思います。

資料1
http://www.meti.go.jp/committee/sougouenergy/sougou/chiikikanrenkeisen/001_05_00.pdf

3.火力発電所をフル稼働させた場合に、地震による被害や、それに伴う点検で火力発電所が停止した場合の停電リスクが指摘されています。
震源地の大分方向への移動も見られ、新大分発電所は230万kWと九州電力最大の火力発電所でありますから、その停止時の電力不足リスクは大きいと考えます。停止時には、関門連絡線(557万kW)による融通、J-POWER・新日鉄関係の発電所からの購入量増加で対応できればよいですが、不足すれば大規模停電の可能性もあります。原発停止させるならば、新大分発電所の停止リスクに対して、計画停電などの措置を事前検討することが必要です。

なお、川内原発再稼働までは、同じリスクを抱えていたわけですから、新大分発電所停止による電力不足時の事前検討はなされているかもしれません。

九州電力 発電設備の概要(平成25年度末)

http://www.meti.go.jp/setsuden/pdf/supply_2012summer_09.pdf

 4.地震によって、南北九州を結ぶ50万Vの送電線が送電不能となるリスクが指摘されています。九電の系統図(資料1)を見ると50万Vの送電線は現状熊本経由の1系統です。九電発電所は、北部九州に偏在しており、南には苓北石炭(140万kW)、川内石油(100万kW)と水力が宮崎に多数ですが合わせて40万kW弱(揚水除)しかありません。それに対して川内原発は178万kWですから、合計460万kWのうち約40%を占める存在ですから、南北分断時には非常に重要な電力供給拠点となることは事実であり、原発を停止することによって増加するリスクだと言えます。

一方で、50万V送電線が使えなくなると、そもそも川内原発があったとしても、南九州において広範囲の停電リスクがあるともされていますから、程度の差はあれ停電が生じてしまうことは避けられないようです(資料2のP9)。

なお、資料3のサイトでは、50万Vの送電線が切れると直ちに冷却水循環用の電源が失われると主張されていますが、川内原発の対岸には川内石油火力発電所があり、北部九州からの電力供給が絶たれたとしても、直ちに外部電源喪失とはならないと考えます。

資料1

http://www.kyuden.co.jp/…/l…/presentation/presentation_2.pdf

資料2
http://www.kyuden.co.jp/var/rev0/0046/3273/pjj4813o8em.pdf

資料3

繋がる、一つに、日本国|三橋貴明オフィシャルブログ「新世紀のビッグブラザーへ blog」Powered by Ameba

 

以上のリスク整理を踏まえ、川内原発を停止することにより増加するリスクは、「新大分火力発電所地震等による停止リスク」「50万V送電線の切断による南北分断が生じた場合に、南部九州における大停電の範囲が拡大するリスク」にまとめられると思います。デメリットがある以上、本来は金額等に換算した評価が必要と考えますが、それはできていません。
そのため、一時停止を求めるにあたっては、これらのデメリットは同時に伝えて、国家的判断に任せることを基本的スタンスとすることとしました。

 

添付のサイトは、より平易で分かりやすくまとめられていますので、合わせてご覧ください。

blog.goo.ne.jp