川内原発の一時停止について技術者倫理に基づく見解

原子力規制委員会において、川内原発の一時停止について技術に対して真摯に検討・議論することを求めるブログです

熊本地震を踏まえた川内原発の危険性についての説明資料

 大阪府立大 長沢名誉教授が資料室長を務める若狭ネットは、
今回の熊本地震の実績を踏まえると、同規模の地震川内原発直近で発生したときに、川内原発の安全限界を超えた揺れが生じ、メルトダウン事故の発生が危惧 されることなどから、川内原発の運転停止などを求める公開質問状を作成し、5月下旬には原子力規制委員会との直接交渉に臨もうとしています。
http://wakasa-net.sakura.ne.jp/news/qnrc20160426.pdf

この公開質問状のうち、熊本地震の実績と川内原発の安全限界の関係性の部分について、より理解がしやすくなるように、説明資料を作成いたしました。

熊本地震を踏まえた川内原発の危険性についての説明 - Docs.com

若狭ネットでは、公開質問状への賛同署名を募集しておりますので、
本資料もご参照いただいて、署名へのご協力をお願いいたします!

賛同署名提出先:若狭ネット 久保様
dpnmz005@kawachi.zaq.ne.jp
タイトル(例)「川内原発運転中止等を求める公開質問状に賛同します」
署名内容「氏名(団体の場合は団体名)および都道府県名」

川内原発について原子力規制委員会のこれまでの公式な議論時間はわずか20分

4/18の会見では、田中原子力規制委員長は、川内原発の一時 停止について「科学的根拠がなければ、国民や政治家が止めてほしいと言ってもそうするつもりはない」(毎日新聞)という趣旨の発言をしています。規制委コールセンターからも「技術的議論は尽くした」という回答を得ています。
しかし、原子力規制委員会のこれまでの公の対応は以下のとおりであり、今回の地震を受けた近い将来のリスクについて、科学的根拠に基づいた真摯な議論が行われたとは到底言えません。我々は、迅速かつ真摯な議論を求め、声を上げる必要があります。
 
【熊本地震発生後の時系列 ●規制委の対応、○規制委以外の事象
○4/14(木) 21:26 熊本地震(前震)発生 M6.5 深さ10km
○4/15(金) 防災科学技術研究所益城観測点(震央から11km)における観測結果を公開
  揺れの規模を示す加速度(単位:ガル)の観測結果は、地表面での加速度1580ガル、硬い岩盤に埋め込まれた地下地震計で260ガル程度という揺れを観測 (いずれも3軸合成値)。地下地震計の値を、基準地震動と同じ前提である解放基盤表面はぎとり波に換算すると約2倍となり、520ガル相当の地震であった ということになります(長沢啓行名誉教授計算)。川内原発の基準地震動は、水平で620ガルですから、これに近い揺れが観測されたということです。
 (※なお正確には、水平基準地震動と比べるべきは水平2軸合成値の実績だと思われますが、未発表です。)
○4/16(土) 1:25 熊本地震(本震)発生 M7.3 深さ12km
○4/17(日) 防災科学技術研究所益城観測点における観測結果を公開、地表面で1362ガルを記録
●4/18(月) AM 熊本地震を受けて初めて原子力規制委員会臨時会議を開催
  総時間40分弱、うち質疑時間は20分弱と極めて短く、その内容も今のところ安全であるという確認がほとんどで、今回の地震を踏まえた将来のリスクに対す る議論は、「もし現状動いている布田川・日奈久断層帯がすべて動くM8.1の地震でも、従来の計算上は大丈夫」という議論だけでした。なお、発表済の実績 データに基づく議論や、川内原発付近の断層が動くリスクの高まりについての議論は一切行われていません
●4/18(月) PM 原子力規制委員長記者会見において、4/15に出された観測結果に基づいた基準地震動の見直し等について質問があり、田中委員長からは「今のところは基準 地震動は維持する」、小林長官官房耐震等規制総括官から「観測結果について今後詳細な分析をする」という旨の回答がありました。
○4/19(火) 17:52 川内原発により近い八代市でM5.5(震度5強)の余震を観測
○4/20(水) AM 原子力規制委員会の定例会議を実施
 震源の南西方向への移動が生じたにもかかわらず、川内原発に関する議論は一切なく、予定通り高浜1・2号機の再稼働について議論が行われたのみでした。
●4/21(木) 原子力規制委員会コールセンターに問い合わせた結果、「実績データの分析はまだ終わっていない、いつ終わるかもお伝えできない」との回答を得まし
○●4/22(金) PM 原子力規制委員会に、大阪府立大 長沢啓行名誉教授が資料室室長を務める若狭ネットから、川内原発の運転中止などを求める緊急申し入れが行われました。
 
【若狭ネットからの緊急申し入れ内容】
結論部のみ転載します。技術的内容について詳しくは、若狭ネットの当該記事(4/22付)をご覧ください。

http://wakasa-net.sakura.ne.jp/www/

1.2016年熊本地震を踏まえると、M6.5の地震川内原発周辺または直下で起きる可能性を否定できず、その場合には川内原発のクリフエッジ (注:安全限界)を超えて炉心溶融(注:メルトダウン)事故が起きる危険性もあることから、九州電力に対し、川内1・2号の運転中止を命令して下さい。

2.益城観測点のM6.5の地震に対する地下地震観測記録はぎとり波の応答スペクトルが川内1・2号の基準地震動を一部超えることから、設置変更許可の前提が崩れたことは明らかであり、即刻、設置変更許可を取り消してください。

3.益城観測点の地下地震観測記録のはぎとり波によれば、今の耐専スペクトルや断層モデルによる地震動評価では過小にすぎることが明らかであり、最 近20 年間の国内地震データに基づいて地震動評価手法を根本的に改定し、新しい地震動評価手法で基準地震動を策定し直してください。

【署名は中止しました】川内原発:わずか20分の議論で科学的に安全と言えるのか

 【重要】若狭ネットへの賛同署名のお願いとネット署名の中止について

300人を超える皆さまに署名頂き、誠にありがとうございました!

本署名につきましては、若狭ネットから出された科学的根拠に基づく緊急申し入れに対して、規制委に真摯な判断を求めるのが趣旨でした。この度、若狭ネットから5月下旬に原子力規制委員会と直接交渉を行うべく、公開質問状(案)が公開され、この賛同者を募っております。
その中で、本署名で独自に行動することは、交渉をスムーズに進める上で悪影響を及ぼす可能性があるため、本署名の募集は中止し、これまでに賛同して頂いた皆さまには、若狭ネットへの賛同署名の提出をお願いしたく存じます。
個人情報保護の観点から、私のキャンペーンに頂いた署名を、若狭ネットに渡すということはいたしませんので、大変恐縮ですが、以下の資料をご参照頂き、若狭ネットへの賛同署名提出をお願いできませんでしょうか。

若狭ネット-2016 年熊本地震を踏まえた川内原発の基準地震動に関する公開質問状(案)
http://wakasa-net.sakura.ne.jp/news/qnrc20160426.pdf
若狭ネット-2016年熊本地震を踏まえ、川内1・2号の運転を中止し、再稼働認可を取り消せ!
5月中旬の原子力規制委交渉に賛同・参加を!
http://wakasa-net.sakura.ne.jp/news/Appealnrc20160423.pdf

賛同署名提出先:
若狭ネット 久保様
dpnmz005@kawachi.zaq.ne.jp
タイトル(例)「川内原発運転中止等を求める公開質問状に賛同します」
署名内容「氏名(団体の場合は団体名)および都道府県名」

以上、お手数をおかけいたしますが、よろしくお願い申し上げます!

ーーー以下参考情報です。

熊本地震発生後、川内原発について原子力規制委員会で話し合われたのは4/18の1回で、総会議時間40分、報告を除く議論時間はわずか20分です。
しかもその中では、川内原発付近で新たな地震が発生する可能性や、今回の地震で観測されたデータの分析は全く行われていません。
そんな中、4/22に若狭ネット(資料室室長:大阪府立大 長沢啓行名誉教授)が、今回の地震のデータを基に川内原発メルトダウンのリスクを指摘し、川内原発の即時停止を、規制委に申し入れました。
川内原発を停めるべき科学的根拠が出た今、規制委には迅速かつ真摯な対応を強く求めなければなりません。署名活動を行いますので、ご賛同・拡散を何卒よろしくお願いします。

www.change.org

【重要】若狭ネット 川内原発停止の緊急申し入れ

4/22PMに大阪府立大の長沢啓行名誉教授が資料室長を務める、若狭連帯行動ネットワークが熊本地震の実績データを踏まえた科学的根拠に基づき、川内原発の停止について規制委に緊急申し入れを行いました!!

これを受け私は、原子力規制委員会コールセンターと丸川環境相事務所に対し、「その内容の判断は規制委に任せるが、このデータを放って、週末に入るなんて言うことは絶対に許されない。直ちに検討に入るように」と強く要請しました。
あわせてコールセンターには、「マニュアルは翌日対応かもしれないがこれは緊急案件である、今すぐ伝えるように」と要請しました。どれだけ響いたかは分かりませんが。

また他に、若林健太議員(自民・長野)、篠原孝議員(民主・長野)、森山農林水産相(自民・鹿児島)、菅直人議員(民主・東京)の事務所に、緊急の要件として連絡いたしました。

wakasa-net.sakura.ne.jp

内容は専門的であるため、かみ砕いた説明を作成予定ですが、結論だけ転記します。

 

1.2016年熊本地震を踏まえると、M6.5の地震川内原発周辺または直下で起きる可能性を否定できず、その場合には川内原発のクリフエッジ(注:安全限界)を超えて炉心溶融(注:メルトダウン)事故が起きる危険性もあることから、九州電力に対し、川内1・2号の運転中止を命令して下さい。

 

2.益城観測点のM6.5の地震に対する地下地震観測記録はぎとり波の応答スペクトルが川内1・2号の基準地震動を一部超えることから、設置変更許可の前提が崩れたことは明らかであり、即刻、設置変更許可を取り消してください。

 

3.益城観測点の地下地震観測記録のはぎとり波によれば、今の耐専スペクトルや断層モデルによる地震動評価では過小にすぎることが明らかであり、最近20年間の国内地震データに基づいて地震動評価手法を根本的に改定し、新しい地震動評価手法で基準地震動を策定し直してください。

【重要】基準地震動と今回地震(前震)の実績について表にまとめました

基準地震動の話は、極めて分かりづらく、誤った解釈も流れているため、私なりに表にまとめてみました。

1.基準地震動の設定(NHKから引用)
川内原発の場合、まず、存在が分かっている活断層による地震の想定では、熊本地震震源とみられる布田川・日奈久断層帯を含めて検討が行われ、原発の南に20キロほど離れた断層(筆者注:市来および甑断層帯)を震源とする地震の影響が最も大きいとして、基準地震動を540ガルとしました。
ま た、存在が分かっていない活断層による地震の想定では、震源に近い観測点で比較的精度の高いデータが得られ、地質学的にもありうるケースの地震として、 2004年に起きた「北海道留萌支庁南部地震」の記録を基に最大の基準地震動を620ガルとして妥当とされました。「北海道留萌支庁南部地震」のケースで は、震源に近い地表の観測設備で1127ガルという揺れが記録され、地下の固い岩盤の表面での揺れは585ガルと推計されています。九州電力はこの評価結 果を参考に不確実性があることも踏まえて620ガルという値を導き出したとしています。

原子力規制委員長 川内原発の運転止める必要ない | NHKニュース

それぞれの断層帯の位置関係は、下記サイトに掲載されています。16番市来断層帯の少し上が、川内原発の位置です。

九州地域の活断層の地域評価 | 地震本部

2.今回地震(前震)の加速度の解釈
今回の地震(前震)により、益城町で記録された1580ガルという値(資料1)は、地表面の加速度です。原発の基準地震動を求める際には、地下の強固な地盤での揺れを想定するため、地表面の値より原則的に小さくなります。
そのため、基準地震動の比較をするためには、地表面の加速度を「地下の強固な地盤での揺れ」に換算する必要があります。大阪府立大の長沢啓行名誉教授が、その換算値を530ガルと計算しており(資料2)、表中に「震央での加速度(原発地盤換算値)」530ガルと示しています。(なお、この値に関しては、原子力規制委員会の公式見解ではありません。)
この530ガルが、もし今回の地震原発直下で起きたとしたときに、基準地震動620ガルと比べることが可能な値です。少なくともこの地震の規模であれば、基準地震動を超えてはいないことが分かります。

資料1
http://www.hinet.bosai.go.jp/topics/nw-kumamoto160414/pdf/K-NET20160414.pdf

資料2
「再評価必要」「想定の範囲」 川内原発運転、識者の見解割れる - 西日本新聞

 

3.今すべき計算
現実に地震が発生した布田川・日奈久断層帯において、基準地震動算定の時に用いたモデルを用いて、今回の前震と同規模の地震が発生したとして再計算すると、川内原発での加速度・震央での加速度(地表面値・原発地盤想定値)はいくらになるのか。そして、その再計算値と前震実績値と比較し、前震実績>モデル再計算値となれば、このモデルは地震による加速度を過小評価していることになり、他の断層も含めて、モデルの信頼性が失われます。すなわち、原発直近の市来・甑断層帯において、想定している加速度より大きな地震が起こる可能性が否定できなくなるということです。その結果、基準地震動を上回る地震が、市来・甑断層帯において想定されるならば、再稼働の根拠は崩れます。
極めて迅速にこの計算を行わなければならない。
皆さま、コールセンター(03-5114-2190)はじめ、各所への連絡をお願いします。

 

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報道各社への規制委に対する質問の依頼

個人での活動では、コールセンターの壁を超えられないため、報道各社に下記質問を規制委の会見で行ってほしい旨要請した。

1) 4/18の会見で質疑のあった、益城町で記録された1580ガルの加速度について、基準地震動の計算を行った際に使用したモデルを用いて、布田川・日奈久断層帯において今回の断層のずれ・規模を再現して計算すると、どれだけの加速度になるのかを再計算し、実際に記録された加速度との比較を行う必要があると考える。もし、モデルによる加速度が小さく計算されるのであれば、他の断層帯に関しても、加速度計算の信頼性が失われる。
18日の時点で、実績について詳細な分析を進めるとしていたが、現時点でどれだけ進んだのか、いつまでに終わるのか。今述べたような内容の分析は含まれているのか。また、この分析が終えるまで、一時停止が必要ではないのか。

2) 現在活動している、布田川・日奈久断層帯以南の断層帯の活動リスクは上昇していないのか。上昇していないという科学的根拠をお示しいただきたい。

3) 川内原発の一時停止の議論は3/18に行われたわずか40分足らずの会議のみであり、そのほとんどは規制庁からの報告であった。将来リスクに対しての議論が全くと言って行われていないと考える。 気象庁防災科学技術研究所、外部の一時停止を求めている有識者を招いた、真摯な議論が必要であると考えるがいかがか。

アゴラ石井孝明さん「川内原発、停止の必要なし−リスク認識の誤り」に対する私の見解

稼働継続に賛成されている方が、アゴラの石井孝明さんの記事を論拠にされていることが多いので、私なりに問題点の反論をしておきます。

(1)「川内原発のリスクは現時点では極めて小さく」とありますが、18日の原子力規制委員会において、川内原発付近の断層の活動リスクが高まったか否 か、再稼働に用いたモデル式が今回の地震と照らし合わせて妥当か否かと言った将来リスクに対しての検討は一切なされていません。あくまで、今起きている地 震に対して、川内原発は安全だと言っているだけで、それは私も重々承知しております。
(2)「重大事故の確率を、100万炉年に1の割合にする。」とありますが、現状の地震の発生状況を鑑みれば、事故の発生確率は平均化された想定確率より 高い状況にあると思います。川内原発付近の断層の活動リスクが高まっていないと科学的に結論付けられるのであれば問題ないと思っていますが、それは悪魔の 証明(実質証明不可能)かと。
(3)「新規制基準では南海トラフ(トラフ:海底の巨大な溝、地震を引き起こす場合有り)が動いた上に、連動して沖縄近辺トラフが動くというあり得ない想定で 試算し、550ガルで対策すると決めた。」とありますが、550ガルという数値は、川内原発直近の断層の地震による加速度であり、南海トラフ+沖縄近辺ト ラフの地震については、確かに検討がなされていますが、検討の結果、長周期振動についてのみの考慮を行っています。最終的な基準地震動660ガルは、「存 在が分かっていない活断層による地震」を想定し、北海道留萌支庁南部地震を参考に決められています。(NHKサイト参照)
(4)「九州南部には、北部と違って大きな電源がない」については、私自身も原発を停止した際の最大のリスクであると思っています。九州全体でみれば、火 力発電所のフル稼働・関門連絡線のフル活用・工場内発電所からの電力融通で賄えると考えていますが、南北九州を結ぶ送電線がもし今後の地震により機能不全 になったならば、原発停止により大規模な停電が予想されます。南北九州送電線の分断リスクも踏まえた上での議論は必要と思っています。

ちなみに、経済ジャーナリストである石井孝明さんが、なぜここまで明確に原発停止の必要はないと言い切れるのか、技術者の私にはよく分かりません。逆に、 専門外の技術者である私には、絶対に止めるべきとは言えません。止めるかどうか真摯な議論をせよということと、規制委が議論していない技術的課題を指摘す ることが、私の技術的限界と思っています。
日本技術士会の倫理綱領にもこう示されています。
3.技術士は、自分の力量が及ぶ範囲の業務を行い、確信のない業務には携わらない。
ですから私はまず初めに、原発を停止することによるリスクを自分なりに洗い出し、それらについて納得した上で、現在の行動をし始めた次第です。

agora-web.jp

www3.nhk.or.jp